前立腺癌手術が必要だと告げられたら

前立腺がん手術が必要だと告げられたら
―低侵襲ロボット支援手術について学ぶ―

対象疾患 : 前立腺癌

前立腺は男性の精液の成分である体液をつくる、くるみ大の男性の生殖器官の一部で、膀胱の下・直腸の前にあります。

前立腺癌は、前立腺の細胞が何らかの原因で無秩序に増殖を繰り返す疾患です。
世界では、毎年90万人超の男性が前立腺癌と診断され、男性では肺癌に次いで2番目に多い癌です1。前立腺癌検診の普及、早期発見、そして治療の進歩により、より多くの男性が前立腺癌を乗り越えることができます。癌が早期に見つかり、局所的または前立腺の中に留まっている場合、5年生存率は100%です2

前立腺癌の症状はさまざまですが、例として、排尿の問題、尿流の開始や停止が困難、尿流が弱いか中断する、排尿時の痛みまたは灼熱感、勃起困難、射精痛、または腰部の頻繁な痛みまたは凝りなどが挙げられます。もし症状があれば、医師の診察を受けることが大切です。

前立腺癌は、DRE(直腸指診)、PSA(前立腺特異抗原)検査、生体組織検査などのスクリーニング検査で見つけることができます。DRE では、医師が手袋をはめた指で、前立腺に硬い部分またはごつごつした部分があるかどうかを触って調べます。PSAは前立腺癌の徴候を見つけるための簡単な血液検査です。PSAレベルが高いか前回の検査と比べて上昇している場合、医師は生体組織検査を指示し、数値の上昇が癌によるものか、何か他の原因によるものかを調べることがあります。生体組織検査では、医師が細い針を使用して前立腺から少量の組織試料を取り出します。癌の徴候があるかどうか、この試料を顕微鏡下で検査します。

内科的治療と外科的治療

前立腺癌の内科的治療と外科的治療には、放射線治療、冷凍療法、注意深い経過観察、ホルモン療法、前立腺摘出術などがあります。放射線治療は前立腺に放射線を照射し、冷凍療法は前立腺を冷凍することで作用します。注意深い経過観察(積極的監視とも呼ばれます)で、医師は定期的な検査と検診で癌を監視します。

癌化した前立腺を切除する手術は前立腺摘出術として知られています。米国泌尿器科学会発行の「前立腺癌の臨床マネジメントガイドライン」には、「前立腺摘出術の主な潜在的利益は、前立腺癌が真に局所的である患者の癌の治癒である」3と定義されています。

前立腺癌手術は、開腹手術または低侵襲手術(腹腔鏡手術)で行うことができます。開腹手術では、腹部を大きく切開する必要があります。切開部は、患者様の体内に術者の手と器具が入る十分な大きさが必要です。開腹手術では、医師は術中、患者様の臓器を見たり触ったりすることができます。腹腔鏡手術では、術者はいくつかの小さな切開部から、長い柄の器具と小さなカメラを使用して手術を行います。手術時にカメラは手術室のビデオモニターに画像を送り、医師をガイドします。

最近の臨床試験で、放射線治療と比較して、前立腺の切除手術により限局性癌の男性の生存率が向上することが分かりました4,5

低侵襲ロボット支援手術という選択肢

医師に前立腺癌手術を勧められたら、ロボット支援手術が受けられるか尋ねてみてください。低侵襲ロボット支援手術(ダビンチサージカルシステム)を使用して、術者は、従来の腹腔鏡手術と同じようにいくつかの小さな切開部を作ります。

ダビンチサージカルシステム(ダビンチ)は、高画質で立体的な3Dハイビジョンシステムの手術画像と、人間の手の動きを正確に再現する装置です。こうした特長により、術者はより鮮明な視野、精密な操作性を利用して手術を行うことができます。ダビンチを利用することで、ロボット支援下前立腺摘出術には、開腹手術に比べ以下のような利点があります。

  • 癌組織のより精密な切除6,7,8,9
  • 以下を可能にする神経温存手術を実施する能力
    • 勃起機能(性機能)のより早い回復10,11
    • 排尿機能のより高い回復率9,10,11
  • 出血の抑制6,9,10,11,12,13,14,15
     輸血の必要性の低減6,9,11,12,13,14,16
  • 合併症リスクの低減6,9,12,13,16、傷口の感染症リスクの低減6,12
  • 入院期間の短縮6,9,10,11,13,17
  • カテーテル留置期間の短縮10
  • より早い回復15、日常活動への復帰17

ダビンチを利用することで、ロボット支援下前立腺摘出術には、従来の腹腔鏡手術に比べ以下のような利点があります。

  • より多くの症例で手術前の勃起機能に回復(12ヵ月後)18,19
  • 排尿機能のより早い回復6
  • 出血の抑制および輸血の必要性の低減6,13
  • 神経および直腸損傷の可能性の低減6
  • 入院期間の短縮6,13
前立腺摘出術とロボット支援手術に関連するリスクと注意事項

前立腺摘出術手技の潜在的リスクとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 神経損傷による排尿および性機能不全
  • 直腸または腸の損傷
  • 肺動脈閉塞
  • 腸閉塞
  • 周囲神経の損傷

加えて、切開部位のヘルニア(組織/臓器が膨れて突き出ること)など、ロボット支援下前立腺摘出術を含む低侵襲手術に関連するリスクがあります13,20

手術支援ロボット ダ・ヴィンチ

患者様に知っていただきたいこと
  • ロボット支援手術を含め、すべての手術はリスクを伴います。
  • 外見上の問題を含め、手術結果は症例ごとに異なります。
  • どんな手術でも、最悪の場合には、死亡に至る重篤な合併症が起きる可能性があります。
  • 入院を要する可能性のある重篤な合併症や生命を脅かす合併症には、組織または臓器の損傷、出血、感染症、および長期にわたる機能不全または疼痛を引き起こす可能性のある体内の瘢痕などがあります。
  • 一時的な疼痛または神経損傷は、腹部および骨盤の手術でよく行われる頭を低くした体位に関連しています。
  • 患者様は、人為的ミスや装置の不具合が起きる可能性を含む手術のリスクを理解する必要があります。
  • 低侵襲手術特有のリスクには、手術の長時間化、他の外科手術への移行の必要性、追加切開またはより大きな切開の必要性、術者による当初の予測よりも長い手術時間または麻酔時間などがあります。
  • 開腹手術への移行により、手術や麻酔の延長が起こり、合併症の増加につながるおそれがあります。調査により、単孔式手術で、切開部位にヘルニアの発生が増加する可能性が指摘されています。
  • 出血しやすい患者、血液凝固異常、妊娠中または病的肥満の患者は、通常、ロボット支援手術を含め低侵襲手術の対象にはならず、他の術式が採用されます。
  • 患者様はすべての外科手術に伴うリスクを確認する必要があります。手術実績について医師と相談し、ロボット支援手術が患者様にとって適切な治療法かどうかを決定する必要があります。

脚注

  1. W.H.O. Globoscan 2008. Country Fast Stats. http://globocan.iarc.fr/
  2. Jemal A. et al Cancer Statistics 2005. CA cancer J Clin 2005,55:10-30.
  3. Prostate cancer clinical guideline update panel. Guideline for the management of clinically localized prostate cancer: 2007 update. Linthicum (MD): American Urological Association Education and Research, Inc. 2007; 82.
  4. Merglen A, et al. Short- and long-term mortality with localized prostate cancer. Arch Intern Med. 2007 Oct 8;167(18):1944-50.
  5. Cooperberg, MR, et al. and the CaPSURE (Cancer of the Prostate Strategic Urologic Research Endeavor) Investigators, Comparative risk-adjusted mortality outcomes after primary surgery, radiotherapy, or androgen-deprivation therapy for localized prostate cancer. Cancer. 2010 Nov 15;116(22): 5226–5234. doi: 10.1002/ cncr.25456.
  6. Tewari A, et al. Positive surgical margin and perioperative complication rates of primary surgical treatments for prostate cancer: a systematic review and meta-analysis comparing retropubic, laparoscopic, and robotic prostatectomy. Eur Urol. 2012 Jul;62(1):1-15. Epub 2012 Feb 24.
  7. Weerakoon M, et al. Predictors of positive surgical margins at open and robot-assisted laparoscopic radical prostatectomy: a single surgeon series. J Robotic Surg. 2011. http://dx.doi.org/10.1007/s11701- 011-0313-4.
  8. Coronato EE, et al. A multiinstitutional comparison of radical retropubic prostatectomy, radical perineal prostatectomy, and robot-assisted laparoscopic prostatectomy for treatment of localized prostate cancer. J Robotic Surg (2009) 3:175-178. DOI: 10.1007/s11701-009-0158-2.
  9. Health Information and Quality Authority (HIQA), reporting to the Minister of Health-Ireland. Health technology assessment of robot-assisted surgery in selected surgical procedures, 21 September 2011. http://www.hiqa.ie/system/files/HTA-robot-assisted-surgery.pdf
  10. Rocco B; et al. Robotic vs open prostatectomy in a laparoscopically naive centre: a matchedpair analysis. BJU Int. 2009 Oct;104(7):991-5. Epub 2009 May 5.
  11. Ficarra V; et al. A prospective, non-randomized trial comparing robot-assisted laparoscopic and retropubic radical prostatectomy in one European institution. BJU Int. 2009 Aug;104(4):534-9. Epub 2009 Mar 5.
  12. Carlsson S, et al. Surgery-related complications in 1253 robot-assisted and 485 open retropubic radical prostatectomies at the Karolinska University Hospital, Sweden. Urology. 2010 May;75(5):1092-7.
  13. Ho C, et al. Robot-Assisted Surgery Compared with Open Surgery and Laparoscopic Surgery: Clinical Effectiveness and Economic Analyses [Internet]. Ottawa: Canadian Agency for Drugs and Technologies in Health (CADTH); 2011 (Technology report no. 137).
  14. Menon M, et al. Prospective comparison of radical retropubic prostatectomy and robot-assisted anatomic prostatectomy: the Vattikuti Urology Institute experience. Urology. 2002 Nov;60(5):864-8.
  15. Miller J, et al. Prospective evaluation of short-term impact and recovery of health related quality of life in men undergoing robotic assisted laparoscopic radical prostatectomy versus open radical prostatectomy. J Urol. 2007 Sep;178(3 Pt 1):854-8; discussion 859.Epub 2007 Jul 16.
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  18. Porpiglia F, et al. Randomised Controlled Trial Comparing Laparoscopic and Robot-assisted Radical Prostatectomy. Eur Urol. 2012 Jul 20. [Epub ahead of print]
  19. Asimakopoulos AD, et al. Randomized comparison between laparoscopic and robot-assisted nervesparing radical prostatectomy. J Sex Med. 2011 May;8(5):1503-12. doi: 10.1111/j.1743- 6109.2011.02215.x. Epub 2011 Feb 16.
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技術

ダビンチは、3D ハイビジョンと広い視野など、向上した機能を術者に提供できる設計となっています。医師がダビンチを操作すると、システムは医師の手の動きを、患者様の体内にある小さな器具で、より細かく精密な動きに変換します。

ダビンチサージカルシステム自身が自由に動作することはできません。
ロボット支援手術は完全に医師の操作によって実施されます。この技術により、医師は従来の腹腔鏡手術と同様に、数ヵ所の小さな開口部から通常の手技や複雑な手技を行うことができます。

低侵襲ロボット支援手術のダビンチは、今日までに世界中で約150万件のさまざまな外科手術を成功させてきました。

ダビンチは世界の外科手術に大きな変革をもたらしています。