梯医師インタビュー

Doctor Interview.13
患者さんとの信頼関係を築きながら、
安心して治療に臨んでいただけるよう
心を尽くしてまいります。
歯科口腔外科 部長梯 裕恵

自己紹介

幼い頃から医療の世界に憧れを抱き、人の役に立つ仕事に就きたいと考えていました。父は医療従事者ではありませんでしたが、医療の道を勧めてくれた影響もあり、自然とこの分野に進むようになりました。

出身は福岡県で、実家から通える九州大学の歯学部に進学。学生時代は歯科全般について幅広く学ぶ中で、特に高度な治療を求められる口腔外科に強く惹かれました。なかでも、顎や口腔内の疾患に対して外科的にアプローチする点に大きな魅力を感じ、この分野を専門にしたいという気持ちが次第に固まっていきました。

卒業後は口腔外科の研修医を経て大学院に進み、免疫に関する研究に従事。データ分析や論文執筆に取り組む中で、論理的に物事を考える姿勢や、根拠をもって説明する力が養われたと感じています。

その後、大学病院に勤務をし、20年以上にわたり臨床・教育・研究の各分野に携わってきました。診療の現場では、さまざまな症例に向き合いながら技術と経験を積み重ね、学生への指導にも力を注いできたところです。

そうした年月の中で、「もっと目の前の患者さん一人ひとりにじっくり向き合いたい」という思いが次第に強まり、この度、大学病院を離れて地域医療の現場に軸足を移す決断に至りました。

今後は、これまでに培ってきた知識と経験を活かし、地域の皆さまに安心と信頼を届けられるような診療を目指してまいります。一人ひとりの声に耳を傾け、丁寧に対応することを大切にしていきたいと考えています。

また、趣味はワインで、これまでにワインエキスパートやシェリーアンバサダー、チリワインなどの資格を取得しています。品種や土壌、気候による違いを知ることで、味わいの背景が見えてくる点に魅力を感じています。医療と同様、背景を読み解く視点や丁寧な観察を大切にしながら、今も学びを続けています。

これからは几帳面で理論的な性格を活かし、根拠に基づいた丁寧な診療を心がけてまいりたいと思っています。

歯科口腔外科ではどのような症状、疾患を診療していますか?

歯科口腔外科では、虫歯や歯周病といった一般歯科では対応が難しい、より複雑かつ専門的な口腔・顎・顔面領域の疾患を取り扱います。

主な診療内容には、複雑な生え方をしている親知らずの抜歯や顎関節症、顎の骨折・脱臼、口腔がん、スポーツや事故による外傷などがあります。また、舌・歯肉・頬の内側といった軟組織に生じる疾患も多く見られます。これらの疾患では、痛みや腫れ、しこり、潰瘍など、さまざまな症状が現れるのが特徴とされています。

そうした中でも私が特に専門としているのが、「薬剤関連顎骨壊死」です。これは、骨粗しょう症やがんの骨転移などに対する薬剤を投与されている方が、歯周病を放置したり、治療が必要な歯や抜歯すべき歯をそのままにしていたりすることで、顎の骨に炎症が広がり、顎骨骨髄炎よりも重い症状を引き起こす難治性の疾患です。進行すると顎の骨が露出したり、膿が出続けたり、強い痛みを伴うこともあり、患者さんの日常生活にも大きな影響を及ぼします。

こうした重症化を防ぎ、できるだけ負担を抑えた治療を行うために、私は「保存的外科治療」というアプローチを重視しています。これは、広範囲の骨を切除するような大がかりな手術を避け、必要最小限の処置と感染のコントロールによって、治癒を目指す方法です。実際に多くの症例で良好な経過が得られており、患者さんの身体的・精神的な負担の軽減にもつながっています。

治療には長期的な管理が必要となるため、患者さんには不安なく治療に臨んでいただけるよう、症状や経過に応じたケアを丁寧に行うことを心がけています。状態に合わせたきめ細やかな対応が、安心と安定した治療につながると考えています。

高齢化が進む中、誤嚥性肺炎などの予防を目的とした口腔ケアや、口腔外科への受診の重要性について

高齢の患者さんにおいては、全身麻酔を用いた手術の際に、口腔内の状態が思わぬリスクになることがあります。たとえば、歯がぐらついていると、全身麻酔時に管を挿入する際、歯が脱落してしまい、気道閉塞や誤嚥の原因となる可能性があります。こうした事故を防ぐためにも、術前の口腔内チェックは非常に重要です。

手術前の段階で歯科による診察を行い、リスクのある歯が見つかった場合には、あらかじめ治療や抜歯をしておく必要があります。患者さん自身に自覚症状がない場合でも、歯科的な問題が全身の医療行為に影響を与えることがあるため、歯科の果たす役割は非常に大きいと感じています。

また当院では今後、周術期口腔機能管理にも力を入れていく方針です。これは、手術の前後に専門的な口腔ケアを行い、口腔内の衛生状態を良好に保つことで、術後の合併症を防ぐ取り組みです。特に高齢の方や全身麻酔を伴う手術においては、こうした管理によって口腔内の細菌数を減らし、術後に細菌が肺へ入り込むことで起こる誤嚥性肺炎の予防にもつながると考えられています。

術前の口腔管理によって全身麻酔下での安全性が高まり、他科の先生による手術がよりスムーズに進むよう支えることも、私たち口腔外科医の重要な役割のひとつだと考えています。

患者さんと接する中で、どのようなことをお感じですか。

患者さんと接する際には、常に「自分の家族だと思って接する」ことを大切にしています。特に初診時は、紹介状を手に不安や緊張を抱えて来院される方が多く、その気持ちに寄り添うことが何より重要だと感じています。そのため、明るい態度を心がけ、診療室の雰囲気づくりにも工夫を凝らし、少しでも安心していただけるよう努めています。

病状や治療内容の説明にあたっては、できるだけ専門用語をかみ砕き、紙に書いたり図や模型を用いたりしながら、患者さんの理解度に合わせて丁寧にお伝えしています。内容をしっかりとご理解・ご納得いただいたうえで治療に進むことが、患者さんの不安を和らげるうえでも非常に大切だと考えています。

今後もわかりやすく誠実な説明を通して、患者さんとの信頼関係を築きながら、安心して治療に臨んでいただけるよう心を尽くしてまいります。

ホームページ・広報誌をご覧になる患者様へのメッセージをお願いします。

このたび、こちらの病院で歯科口腔外科の診療を担当させていただくことになりました。
これまでの経験を活かし、患者さんが安心して受診できるような診療体制を整え、地域の医療に貢献していきたいと考えています。

診療にあたっては、正確な診断と丁寧な説明を心がけ、一人ひとりに合った治療を提供できるよう努めてまいります。

また、「これは歯科なのか医科なのか分からない」といったような、判断が難しいような症状でも構いません。お口や歯に関して気になることがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。どこに相談すべきか迷われたときに、まず頼っていただける窓口になれるよう、わかりやすく、丁寧な対応を心がけてまいります。

プロフィールProfile

梯 裕恵かけはし ひろえ
診療科 歯科口腔外科
所属学会 歯学博士、公益社団法人日本口腔外科学会 口腔外科専門医、厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導歯科医